ラン科の花 1 | TOP 前ページ 次ページ | |
アオチドリ属 | ||
アオチドリ(西岡月寒川、当別町医療大学) | ||
花は唇弁が大きく、目立ちます。 側花弁は兜型の萼片に隠れてよく見えません。 唇弁は後方に反り、先端が花茎にくっつくほどです。 まるで唇弁をつっかえ棒にして花を支えているように見えました。 アオチドリは、花柄子房を180°ねじらせ唇弁を下側につける「標準タイプ」です。 花柄子房に縦の線が入り、判別し易いです。 |
やや湿った林内に生える、高さ20〜50cmの多年草。下部に鱗片葉が数個あり、葉はその上に3〜5個互生する。茎頂に薄緑色または紫褐色の多数総状につける。苞は葉状で花より長い。唇弁は長さ約1cm、先端は3裂し、中裂片は微小。距は短い。北海道、本州(北部・中部地方)、四国に分布。花期は5〜7月。別名ネムロチドリ(根室千鳥)。 | |
アツモリソウ属 | ||
クマガイソウ(愛媛県高縄山) | ||
山地の樹林下、特に杉林や竹林に多いそうです。 葉は2個つき、扇円形で直径10〜20cm。 放射状に多数の脈があり、縦ジワが目立ちます。 一度見たら忘れられないほど印象的です。 花期は4-5月。![]() |
唇弁は大きな袋状になっていて縁が内側に巻き込んでいます。 他の属のランには見られない、特殊な構造が際立っています。中央の穴から入ったマルハナバチの仲間などの昆虫は、同じ場所から出ることができないそうです。 中には長い毛が疎らに生え、ハチはそこを伝わって唇弁上部の別の穴に誘導されます。 その出口は小さめで、葯が控えており、ハチは葯に体をこすりつけるようにしないと出ることができません。 そのとき花粉がたっぷりハチの体につきます。 ハチが別の個体で同じように花に入り込むと、体についた花粉が柱頭に接し、受粉が成立するのです。 ハチは大変ご苦労様ですが、花粉を運ぶ報酬としての蜜をもらうことができません。 アツモリソウ属の花にはそもそも蜜腺がなく、花粉を運んでくれる送粉者に対して蜜などの報酬を与えない、無報酬花(rewardless flower)なのです。 特殊な形状の唇弁とそこにある穴は、昆虫に対してあたかもその中に甘い蜜があるかのように見せかけているのですが、実は蜜はないので、昆虫を騙す詐欺行為であると言えます。特徴のある蕊柱や唇弁もさることながら、他にも変わった点があります。 ラン科の花には合計6個の花被片があります。内訳は、以下です。 外花被片:背萼片x1、側萼片x2 内花被片:唇弁x1、 側花弁x2 これで合計6個ですが、クマガイソウには5個しかないように見え、数が合いません。 実は、2個の側萼片が合着し、1個の萼片に見える「合萼片」になっているのでした。 それであれば数は合います。 クマガイソウの合萼片は花の背後にあるので、花を正面から見ると唇弁に隠れて見えません。 本当に変わった花ですが、進化の最先端にいるのは間違いありません。(ラン科の花は現在も急速に進化していると考えられています) 花柄子房はねじれていないので「ストレート・唇弁下側タイプ」です。 |
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エビネ属 | ||
エビネ(愛媛県高縄山) | ||
キエビネ(愛媛県高縄山) | ||
サルメンエビネ(野幌原始林) | ||
ブナ帯の落葉樹林下に生える多年草です。 花茎の高さは 30〜50cm。 7〜15個の花をまばらにつけます。 唇弁は3裂し、側裂片は小さく、中裂片は側裂片と比べとても大きい。 各裂片の基部付近は白色に近いクリーム色で、それより先はやや紫色を帯びた褐色です。 中裂片の縁は黄色味が強く、縮れたひだになり、フリルのようです。 中央には3条のとさか条の突起があります。 これを「しわ」と表現する図鑑もあります。 名の由来は、この唇弁がお猿の顔を連想させることに由来するそうです。 蛇足ですが、エビネ属の花は、唇弁が3裂します。 唯一、唇弁が3裂せずに縁が細裂するのはキソエビネだけです。 さて、薄い黄色の帽子状の部分が、蕊柱です。 この下に葯に包まれた8個の花粉塊がありますが、上の写真では見えません。 この花には、距がありません。 子房の入口には、白毛が密生していますが、上の写真ではよく見えませんね。 ここまで近づくと子房の入口の白毛も見えます。 唇弁中央部の「3条のとさか状突起」の様子もよくわかります。 かなり複雑な形状ですね。 なぜこのような形にしたのでしょうか? ラン科の唇弁は、花粉塊を運んでくれる昆虫を誘うための広告塔ですから、サルメンエビネが訪れて欲しい昆虫が興味を持つような形状にしたに違いありません。 この花には、距がありません。 距とは、唇弁の奥に続く細長い袋状の器官で、通常はこの中に蜜をためて昆虫を誘います。 距がないということは、蜜も出さないと思って良いと思います。 蜜を作るためには糖を合成するためのエネルギーが必要です。 蜜を作らなくて済むなら、それは植物にとって省エネルギー、つまりエコであり、他に生存エネルギーを振り分けることができます。 |
上の写真では、4株が密にくっついて生えています(3株見える中央の後ろにもう1株あり)。 地面についている濃い緑色の葉は、越冬葉です。 新葉は緑色で、3〜4個束生します。 図鑑には「長さ15〜25cm、幅6〜8cm」とありましたが、それより大きく見えました。
葉は無毛で、先端は尖ります。 深い縦じわが印象的でした。 わずかに紫色を帯びた、褐色の大きな唇弁に目を惹かれます。 私はお猿の顔は連想しませんでした。 それよりも、激しく踊る フラメンコ・ダンサーの衣装を連想しました。 萼片・側花弁は明るい黄緑色で、先端は尖ります。 萼片は長さ20〜25mm。 側花弁は萼片より少し小さい。 しかし、昆虫が好む蜜を持たずして、昆虫を誘き寄せて花粉塊を運ばせるには、どうしたらよいのか? サルメンエビネが出した答えは、思いっきりハデな唇弁を作り、昆虫の目を引いて、あたかもおいしい蜜があるフリをすることだったのかも知れません。 ハデな広告塔に誘われてフラフラと飛んできた昆虫は、蜜をもらおうと子房の入口に頭を突っ込みます。 しかしそこにな何もない。「ちぇっ、蜜がないじゃん!」と舌打ちをして飛び去る昆虫の背中には、しっかりと花粉塊が付けられ、送粉者に仕立て上げられているのでしょう。 見た訳ではなく、勝手な想像ですが。 上はサルメンエビネの花柄子房に注目した写真です。 花柄子房は明確に180°ねじれていました。 サルメンエビネは、花柄子房を180°ねじらせて唇弁を下側につける「標準タイプ」のランです。 苞は細長い三角形で先端はとがり、長さは5〜8mmです。 花柄子房を根元で支えているように見えます。 茎や花柄子房にはごく短くまばらな微毛が生えていました。 長年、見たくても出逢う機会がなかったサルメンエビネに出会えました。 この幸運に感謝したいと思います。 思っていた以上に見応えのある、美しくも立派なランでした。 このランがいつまでも生き続けられる環境が維持されることを、切に願います。 |
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オニノヤガラ属 | ||
オニノヤガラ(白旗山、西岡月寒川) | ||
この姿は、異彩を放っていると言えるでしょう。 雑木林の林内に生える多年草。 葉緑素を持たず、光合成を行わない、菌従属栄養植物です。 種子発芽時にはクヌギタケ、親株の成長期にはナラタケの菌糸と共生し、地下にジャガイモのような塊茎をつくるそうです。 名の由来は、長くまっ直ぐ伸びた花茎の姿を、鬼の使う弓矢の矢に見立てたものです。 花期は5-7月。 茎は見事にまっすぐで、本当に矢を地面に突き立てたようです。 色は地味ですが、この姿のために森の中では目立ちます。 花の形も変わっています。 左右の側萼片と背萼片は合着し壺状になっているのです。 下側は縁を斜めに切ったような形で、上側は3裂します。 その内側に小さな側花弁が2個つくので、全体として5裂しているように見えます。 唇弁の縁は黄色を帯び、細かく裂けています。 唇弁の上にある丸っこい部分が葯です。 蕊柱は奥にあるので見えません。また、距はありません。 多くのラン科の花に見られる子房のねじれは、この花には見えません。 このランは「ストレート・唇弁下側タイプ」のようです 葉はありませんが、茎のところどころにこのような鱗片があります。 茎に触れてみたら、まるで木のように固い感触でした。 ![]() |
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カキラン属 | ||
カキラン(長万部静狩湿原) | ||
湿地に生える高さ30〜70cmの多年草。葉は互生し長さ7〜12cm、幅2〜4cmの狭卵形で、脈上に著しい縦じわがあり、基部は短い鞘状になって茎を抱く。花は茎の上部に10個ほどつく。萼片は長さ1.2〜1.5cmの長卵形で先は尖り、緑褐色を帯びる。唇弁は内側に紅紫色の斑紋があり、関節によって2つに分かれる。唇弁の側裂片は耳上に張り出す。北海道〜九州に分布。花期は6〜8月。(参考:山渓ハンディー図鑑 野に咲く花) |
全体の高さは大きなものは70cmほどあります。葉は互生し,5〜10個程度つきます。 平行脈沿いにくっきりとしたシワが入るのが特徴的です。葉は下側が大きく、上になるほど小さくなり、一番上は花のすぐ下で包葉になります。 名は色が柿に似ているから付けられたそうです。 見た印象では、木に生っている柿の実よりも、食べるために皮を剥いた状態の柿の色に近いと感じました。 |
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